「平均賃上げ率」だけ見ていませんか?2026年春闘で知るべき「合理的な賃上げ」の考え方

賃上げ Small Talk

はじめに

「今年も5%以上の賃上げが達成できました。」——ここ数年、春闘(春季労使交渉)で賃上げの数字が大きく取り上げられています。
しかし、経済学者が警鐘を鳴らすのは、「平均賃上げ率」にばかり注目すると、実は賃下げになった人への配慮がおろそかになりがちだということです。
本記事では、武蔵大学の神林龍教授が提唱する「合理的な賃上げ率」の算出法を解説します。2026年春闘に向けて、経営者も労働者も知っておくべき、賃上げの「本当の意味」をご紹介します。

「合理的な賃上げ率」とは?3つの要素をバランスよく考えること

「合理的な賃上げ率」は、単に「去年より売上が増えたから3%」といった過去の実績ベースではなく、「将来を見据えた視座」で計算することが重要です。
神林教授によると、合理的な賃上げ率は以下3つの要素を組み合わせて算出します。
Table

要素 内容 ポイント
インフレ率 物価上昇分の
見込み
日銀の予想(2027年度は2%程度)または、労働組合員の生計費調査を活用
労働生産性 生産性の向上分 過去の実績+投資計画に基づく将来の生産性向上見込みを加味
労働分配率 企業利益の
労働者還元分
2010年代以降低下傾向にある労働分配率を元の水準に戻す
この3つをバランスよく加味することで、単なる「数字合わせ」ではない、持続可能な賃上げが実現できます。

なぜ「平均賃上げ率」だけでは不十分なのか?

ポイント1:平均値が隠す「賃金格差」の現実

「会社の平均賃上げ率が3%」でも、全員が3%上がるわけではありません。実際には8%上がった人もいれば、1%未満の人もいる——こうした賃金変化率のばらつきを見ることが重要です。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」(20〜23年)を分析した結果、上位4分の1の層は2.5%増加した一方、下位4分の1は3.3%減少していました。つまり、賃上げの恩恵が行き渡っていない層が存在するのです。

ポイント2:「個人」を見る視点が必要

これまでの春闘は「平均」が重視されがちでしたが、今後は個人の実質賃金変化率を把握することが重要です。経営層は人事部を通じて個人の賃金推移を把握でき、労組も組合費の徴収データから逆算可能です。
特に注目すべきは、ミドル・シニア層です。新卒の初任給は目覚ましい勢いで引き上げられていますが、中堅・ベテラン層は据え置き気味——このバランスを見直す必要があります。

ポイント3:生計費調査の復活

将来のインフレ率を予想するには、日銀の予想(2027年度は2%程度)を使う方法と、労働組合員の生計費調査を復活させる方法があります。後者は、社員一人ひとりの生活水準とインフレの影響をしっかり把握した上で賃上げ率を考えることができます。

「労働分配率」を元に戻す意義

日本の労働分配率は2010年代以降、低下傾向にあります。これは企業が利益を賃上げや福利厚生ではなく、内部留保などに振り向けてきたことを示しています。
労働分配率を元の水準に戻すことは、過去の賃上げ不足分を埋め合わせる意味合いも持ちます。特に年功賃金が多い日本では、高齢化により退職者(高賃金)が増え、入職者(低賃金)が増える構造で、労働者数を一定に保っているだけで労働分配率は下がりやすくなります。
企業にとっては、利益を社員にしっかり還元する「機会」として捉えることで、人材流出を防ぎ、持続的な成長につながります。

まとめ

「合理的な賃上げ」とは、単なる数字の積み上げではなく、インフレ、生産性、分配率という3つの視点をバランスよく組み合わせ、さらには個人単位での賃金変化にも目を向けることです。2026年春闘は、若手だけでなくミドル・シニア層にも恩恵が行き渡る「全体最適」の賃上げを目指したいものです。

プロフィール
この記事を書いた人
S. Hiro Black

日本に血縁を持つフランス人です。ヨーロッパやアメリカなどで新規事業開拓の仕事を長くしてきました。今は日本に住んで活動しています。ここでは、社会経済、科学、スポーツの気になった話を独自の視点で解説します。

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