はじめに
経営者が高齢化し、後継者がいないという問題を抱える中小企業は多く存在します。特に深刻なのが、「黒字なのに廃業を選ぶ」というケースです。帝国データバンクの調査では、2025年に休業・廃業した企業の売上高が約24.9兆円にも達しています。
しかし、この問題に対し、金融機関主導で新たな解決策が登場しました。それが「内部承継プラットフォーム投資事業」というファンドです。この記事では、その仕組みや意義を詳しく解説します。
「黒字企業の後継者不足」に挑む、異色のPEファンドとは
近年、日本の中小企業界は深刻な課題に直面しています。経営者の平均年齢が71.5歳と過去最高を更新し、高齢化による引退後も会社が存続できない状況が多発しています。これに対し、野村HD、伊藤忠商事、三井住友銀行などの金融機関が共同で設立したのが、「内部承継プラットフォーム投資事業」です。
なぜ「内部承継」に焦点を当てたのか
伝統的な事業承継の道は主に2つでした:M&Aによる第三者への売却、または廃業。しかし、帝国データバンクの調査では、血縁関係のない社員が経営を引き継ぐ「内部昇格」の割合が最多を占めるようになりました。
今回のファンドは、まさにこのニーズに答えるものとして生まれました。一般的には金融機関が敬遠してきた内部承継支援が、今回は特別に支援される形になっているのです。
仕組みを3つのポイントで解説
ポイント1:ファンドが株式を取得し、従業員は有償ストックオプションで入る
このファンドの最大の特徴は、後継者の負担を減らす仕組みにあります。まずファンドがオーナーから対象企業の全株式を取得します。その後、承継する従業員側には「有償ストックオプション(SO)」という形での株式取得をお願いするのです。
これは非常に重要なポイントです。なぜなら、従業員の財務負担を大幅に減らすことが可能になるからです。一般のM&Aの場合には巨額の資金が必要になりますが、この仕組みであれば少額で事業を引き継ぐことができます。
ポイント2:従業員が経営を続け、業績に応じて自社株買い
承継後は内部承継者が会社を運営します。そしてキャッシュフロー(現金の出入り)を使って、ファンドの株式を持ち分を段階的に購入していく仕組みになっています。
ファンド保有株式 → 自社株買いによる段階的譲渡 → ファンドの持分ゼロへ
つまり、ファンドは「一時的な所有者」という位置づけになります。従業員側が少しずつ買っていくことで、所有感も育ち、安心できる事業承継が可能です。
ポイント3:長期資金供給と伴走支援
一般的なPEファンドよりも約10年長く、存続期間は約20年間です。これは「短期での利益 maximization」ではなく、「企業の長期的成長」を見据えた投資スタイルです。
野村HDの茂木豊社長は「企業を選ぶ際は内部承継者の資質だけでなく、事業への情熱も重視する」と語っています。単なる資金提供ではなく、伴走型支援を行うことが特徴なのです。
関連知っておきたい補足情報
出資総額と投資計画
現在の出資:約47億円(3月末時点)
目標規模:2027年3月までに最大100億円
投資対象企業:数社から十数社程度
投資条件:収益が安定した企業に集中
伴走期間:長期間のサポートを前提
伊藤忠商事の役割:DX支援
伊藤忠商事は、対象企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援します。グループ企業からコンサルティングやシステム導入支援を手掛ける企業が関わっており、顧客接点の拡大につなげる狙いがあります。
倉島慶氏(エキュベーション推進課長)は、「内部承継ファンドが日本でも機能するかどうかを見極めたい」と述べています。日本の中小企業文化に合った形での事業承継を探求しています。
リターンの分配方法
ファンドは株式売却益と配当収入からLP(出資者)にリターンを毎年分配します。目標リターンは一般的なPEファンドと同水準を目指しており、投資家にも安心を提供する構造になっています。
事業承継ファンドは金融機関が敬遠するテーマのため、投資には慎重な判断が必要です。ただし、内部承継支援の分野では特例的な扱いとなっています。
結論:仕事からの教訓として
この「内部承継プラットフォーム投資事業」には、私たち働き方の本質に触れる重要な示唆があります。
成功の本質は「仕組みの工夫」にある
企業や組織においても、困難を突破する鍵は「画一的な解決策」ではなく「柔軟な仕組み作り」にあります。従来のM&Aや廃業という二択だけがある状況で、金融機関が共同で新しい道を開いたように、私たちが直面する課題にも多角的な視点が必要です。
情熱と質の両方を重視する
野村HDの茂木社長は「資質だけでなく、事業への情熱も重視する」と述べました。これもそのまま働き方へ適用できます。能力だけでなく、仕事への思い入れや熱意こそが、組織を長期的に支える重要な要素になります。
長期視点を持つことの重要性
このファンドは20年という長期的な存続期間を見据えています。私たちはしばしば「短期での成果」を求めるばかりですが、真の成長や価値創造には時間がかかります。焦らずに、着実に進めていく姿勢が結果的に大きな成果につながります。
伴走型支援の大切さ
単に資金を提供するだけでなく、経営者とともに歩み、必要な時に必要なサポートを行う。「一人で戦うのではなく、チームで取り組む」という精神も、現代の働き方にとって重要な教訓です。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の意義
伊藤忠商事がDX支援を行う点は、変化への適応を常に求められていることを示しています。時代の変革に対応しながら、伝統的な価値を守り続けるバランス感覚も、仕事や人生において求められる重要なスキルです。
このように、「内部承継ファンド」という具体的な事業事例から、私たちの働き方や組織運営の本質的な教訓が見つかります。困難な状況を突破するためには、画一的な解決策を探すだけでなく、柔軟で包括的なアプローチを持つことが重要なのです。

