リスクマネジャーが不足する今。企業が生き残るための「本当のリスク対策」は?

リスクマネージメント Small Talk

はじめに

保険料が高騰し、海外投資家も厳しく見ている現在。多くの企業では「もう保険会社に頼ってはいけない」という認識が生まれています。しかし、日本企業の大半はまだ自社のリスクを見直すことに慣れていません。

そこで今回は、なぜ今リスクマネジメント専門家の育成が必要なのか、大手企業の実例を通じて解説します。経営者の方だけでなく、社内でリスク対策に関わっている方にも役立つ内容です。

 保険会社の常識が通用しない時代。

「自分たちの責任」でリスクを管理する必要性が高まっている

なぜ今、リスクマネジメント専門家が不足するのか?

東京海上ホールディングス(HD)の小池島津社長は2025年6月の就任会見で、「(リスクマネジメント) は企業経営をする上で重要な着目点。我々はその動きをビジネスチャンスに変えていかなければならない」と断言しました。

この言葉の背景には、日本の保険業界に起きている大きな変化があります。

保険料が上がる3つの要因

  1. 自然災害の激甚化 – 近年の大規模台風や豪雨で、損保会社の損害額が過去最高を更新
  2. 大手損保の値上げ潮 – 2024年10月以降、主要損保は保険料を約1割引き上げる動きを展開中
  3. 業界不祥事の連鎖 – 「企業向け保険で赤字が続いていた状況」から適正化への転換

これにより、「これまでと同じ水準で同じ保険を引き受けてもらえなくなる時代」が到来しています。

欧米との差:「経営陣の責任」という視点

海外では、事故や不祥事が発生した際にリスク対策が十分でなかったと見なされれば、経営陣自身が訴えられるケースがあります。そのため大企業のほとんどはリスクマネジャー(専門担当部署)を配置しています。

日本企業にはまだこの意識がありません。「保険会社が勧めるものを漫然と買う」という姿勢は残っています。これでは、欧米からの投資が増える中で国際的な競争力を維持することが難しくなります。

リスクマネジメント体制の強化で学べる3つの重要な事実

ポイント1・本社主導で全社横断的にリスクを再認識する

大損保ジャパン・村山知生社長は「まずは本社が主導して自社が抱えているリスクを把握してほしい」と指摘しています。これは、保険会社任せにせず、「自社のリスクマップ」を描くことから始まります。

具体的な手順:

  • 本部門ごとの事故発生頻度データを整理する
  • 過去の不祥事やクレーム事例を全社で共有化する
  • 「最悪-case を想定した対策案」を作成し、予算を確保する

ポイント2・海外子会社を持つ企業は既に「捕手(キャプティブ保険)」を導入

大手飲料メーカーのキリンHDが示す好例があります。同社は10年前からリスクマネジメント体制強化に本腰を入れ始めました。

グループ全体のリスク方針を統一– 海外子会社のリスク対策レベルが本社より高い状況を踏まえて、全社で基準作り
海外保険も活用– 日本の保険会社だけでは限界があるため、ブローカーを通じた国際的な保険契約を実現
キャプティブ保険の導入 – オーストラリア子会社が持っていた自家保険会社を2023年に買い取り、リスク管理を持続可能に

外資系保険会社の審査は厳しく、「毎年詳細な開示」が必要になります。これ自体がリスク管理体制の高度化につながっています。

ポイント3・企業内代理店(内部専門家)への投資

キリンHDは「人材の育成・確保が不可欠」と認識し、各子会社にあった代理店を本社に集約しました。ホールディングス全体でリスク管理業務の一部を担当させる仕組みです。

このアプローチにより、「経営環境の不確実性が高まる中、保険会社に任せっきりにするのは新たなリスクになる」ことを理解できます。

補足情報・専門知識の整理(仕事に活かすために)

「リスクマネジャー」とは誰か?

リスクマネジメントを専門とする人材は「リスクマネジャー」と呼ばれています。主な業務内容は以下の通りです:

  • 企業全体にかかるあらゆるリスクを把握し、管理する
  • 保険体制構築・再検討を行う
  • リスクから生じるビジネスチャンスを捉える

不足状況と今後の動向

東京海上ホールディングスが2025年3月に始めたリスクマネジメント人材養成講座は募集開始ですぐに満員。第2弾を5月、第3弾も年明け予定という人気ぶりです。

現在、多くの企業が保険契約やリスク対応策を検討していますが、「専門知識を持った人を雇う企業はまだ少ない」のが現実。この差が将来の競争優位性を決める可能性があります。

注意:ただ人材を採用するだけでは不十分

「リスクマネジャーを置くこと」自体は目的ではなく、「自社のリスクを理解し、適切な保険ポートフォリオを構築する能力」とセットで考える必要があります。

特に重要なのは以下の点です:

  • リスク情報や自然災害について年次開示(外資系保険の場合)
  • 資本市場からの評価管理(欧米投資家向け基準に合わせる必要性)

まとめ

「雨降って地固まる」という言葉があるように、不確実性の中でこそ企業の強みが育まれます。リスクマネジメントとは単なる防衛策ではなく、経営陣が「責任を持って自社の未来を描く姿勢」の表れです。欧米では数十年かけて築かれた風土がありますが、日本でも今から始める時なのです。

保険会社任せにしていた時代は終わり、「自社でリスクを理解し管理する」という常識に戻らなければなりません。その第一歩は本社からの主導と、社内に専門家を持つことです。

「失敗したくない」のではなく、「どんな状況もビジネスチャンスに変えられるか」。それが真の競争力になります。

 

プロフィール
この記事を書いた人
S. Hiro Black

日本に血縁を持つフランス人です。ヨーロッパやアメリカなどで新規事業開拓の仕事を長くしてきました。今は日本に住んで活動しています。ここでは、社会経済、科学、スポーツの気になった話を独自の視点で解説します。

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