はじめに
近年、「AI」や「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉が話題になりがちですが、実際にどのような仕組みになっているのか、多くの人はイメージしづらいものです。特に、私たちの生活の基盤となっている「国際物流」という業界では、AIの活用は急務とされています。
この記事では、実際のフォワーダー企業が直面した課題と、AIを活用してどのように解決したのかを詳しく解説します。
国際物流業界の「勘と経験」への依存から脱却する
まず、国際物流業界には長年、「勘と経験」という方法に依存してきたという課題がありました。旅行代理店のような役割を担うフォワーダーは、荷主に代わって輸送プランの提案や各種手続きを行いますが、この領域でのDXが一向に進んでいませんでした。
その理由として挙げられるのは、関わる関係者が多いこと、イレギュラーな対応が多いこと、トラブル処理が頻発することなどです。そのため、顧客ごとに担当者をつけ、すべての工程を1人が担当する「個社対応」を実施してきました。
その結果、業界は50年もの間DXの波に取り残されてしまいました。しかし、荷物は増える一方で労働人口は減少傾向にあり、未経験者をすぐに戦力として育てていく仕組みが必要になったのです。
そこでコミュニケーションコストを下げるための「見える化」からDXを進め、自社のシステムで利便性を実証しながら他社にも展開する方針を取りました。この努力の成果が認められ、2022年には大手輸送会社を買収し、通関事業へも進出を果たしました。
多層AIエージェントで業務効率化を9割実現
ここが重要なポイントです。同社は、国際物流において「司令塔AI」と「専門AI」を組み合わせた「多層AIエージェント構想」を実現しました。
司令塔AIの役割:
- 顧客からの連絡を自動で受け取り
- 件名や本文のコンテキストを理解
- どのチームに何の依頼が来ているか確認
専門AIの役割:
- スケジュールの更新
- ドレージ車の手配
- 倉庫会社への連絡など各種手配準備
従来の仕組みでは、差配チームが1日中顧客からの連絡に目を光らせ、専門チームに業務を逐次振り付ける必要がありました。しかし、司令塔AIを導入したことで、約7割の業務を自動化することに成功し、単なる工数削減にとどまらず、顧客へのレスポンス速度向上にもつながりました。
特に重要な成果として、海外代理店関連業務については9割もの自動化を実現しました。これは驚異的な数字であり、AIの実用化がどの程度可能かを示しています。
100%精度は求めず、失敗前提の体制構築が重要
ここで注目すべきは、同社の考え方です。彼らは「AIに100%の精度を求めなくても十分活用できる」と考えます。
人間が作業しても100%にはなりません。すべてをAIに任せるのではなく、「失敗を前提にどうフォローしていくか」、その体制を構築することが重要なのです。
また、業務に活用できる便利なAIはエンジニアがつくるものという考えもありますが、現場業務の分かる人が主体となって、エンジニアと一緒についでいくべきだと指摘しています。
補足情報:標準化の重要性
国際物流領域では、荷主企業や海外現地代理店、輸送業者、通関、倉庫会社など30を超える関係者とのやり取りが必要です。中には最大36種類・240部ものコピーが必要な業務があるため、書類が紙や電話、個人メールなどに埋もれていました。
標準化プロジェクトを始めた2024年頃には、生成AIの話題が始まっており、AI-OCR機能の開発や、専門部署「AI Advanced Lab」の立ち上げ、AI通関クラウド「Shippio Clear」の開発なども進められました。
まとめ
国際物流業界におけるDXの実例を通じて、私たちが得るべき教訓は何か?それは、テクノロジーの本質を正しく理解し、現場の課題を解決する方向に向き合うことの重要性です。
「昨日と同じ今日が過ごせればいい」と考える人たちに、「今日と違う明日」を提供できることが、真のビジネス成長への道です。AI活用においても、完璧さよりも「試行錯誤し続ける姿勢」、そして「現場の声に耳を傾けること」が何より重要です。
デジタル化が進む社会の中で、私たちは技術に踊らされることなく、自社の強みを活かした方向性を模索していかねばなりません。そのためには、まずは小さく始めて成功体験を作ることも、また重要な一歩だと言えるでしょう。


