自治体の奨学金返還支援が広がる|企業・地方創生に好影響の”三方よし”経済

日本学生支援機構 Small Talk

はじめに|なぜ今、自治体の奨学金返還支援が注目されているのか

近年、日本では大学卒業後の若者が地方へ戻る「Uターン」や、他国から日本に戻る「Iターン」といった人口移動が活発化しています。一方で、企業側は優秀な人材の確保に苦戦し、給与水準が高くても離職率の高い業界も少なくありません。

この背景下、自治体と企業の連携で広がる新たな支援制度があります。それが、「企業従業員の奨学金返還を支援する」動きです。日本学生支援機構(JASSO)が21年度に創設した「代理返還制度」と組み合わせることで、企業が返済義務のある学生を採用し、返還残額の一部または全額を企業の負担とするという仕組みです。

この記事では、なぜこの制度が注目されているのか、具体的な取り組み事例や効果がどのようなものなのか、また企業・自治体・従業員・若者にとってのメリットについて詳しく解説します。地方創生や人材確保に携わる方、大学生や卒業生にも有益な情報となっています。

自治体の奨学金返還支援とは?JASSOと企業の連携で広がる”代理返済”システム

日本の学生支援の中心を担う「日本学生支援機構(JASSO)」には、貸与された奨学金の一部または全額を返還する義務があります。特に地方に住む若者にとっては、給与水準が低く、奨学金返還の負担感が強いのが実情です。

そこで、21年度に創設された「代理返還制度」がスタートしました。これは、企業が従業員(奨学金を返済する社員)の代わりとして、JASSOに対して直接送金できるという仕組みです。利用企業数は2026年1月末時点で4,614社まで拡大しており、地方創生や雇用確保に大きな効果を上げていることが確認されています。

「代理返還制度」の具体的な内容

  • JASSOへの直接送金:企業がJASSOに対し、従業員の奨学金返還残額の一部または全額を送金できます
  • 返還金額の例:平均貸与総額は約323万円で、平均返還年数は15年です
  • 対象となる学生:JASSOを利用している大学在学中に奨学金を受給した学生
  • 企業のメリット:人手不足の解消、優秀な人材の確保
  • 若者のメリット:経済的な負担の軽減、地元への定着支援
  • 自治体のメリット:Uターン・Iターンの促進、地方創生

このシステムでは、「企業が返還を支援し、その企業自体が自治体からもサポートされる」という連鎖的な仕組みができあがりつつあります。まるで、奨学金返済を「企業の福利厚生プログラム」のように捉えることができるようになっています。

自治体の取り組み事例と具体的な支援内容|なぜ地方自治体が参画しているのか

JASSOの代理返還制度に加えて、各自治体独自の奨学金返還支援が広がっています。これは単なる制度活用ではなく、「地元に若者が定着すれば地方創生にもつながり」という明確な目的意識に基づいています。

秋田県の取り組み|”あきた企業連携型奨学金返還助成制度”

秋田県は2024年度からこの制度を開始しました。特徴は、奨学金返還する社員自身を支援対象にし、県と企業が共同でサポートするという点です。

  • 助成金額:最大1人当たり年間20万円まで
  • 対象企業:奨学金返還制度に登録している企業へ入社した人
  • 現在登録企業数:約135社

秋田県横手市に本拠地を持つアスターは、高性能モーター研究開発・製造の注目銘柄です。新卒採用に苦戦し、2026年春入社の社員がゼロという状況でしたが、「地域で産業を興し事業に取り組み、地元からの雇用は大切」としてこの制度を活用準備中と発表しました。

奈良県野迫川村|人口約300人の小さな自治体も参画

特に印象的なのは、人口約300人の奈良県野迫川村です。職員の採用に苦戦し、新卒人材を確保するため、2025年11月に「村職員の奨学金返還支援金の要綱」を制定しました。

  • 助成内容:奨学金を利用した学生を採用した場合、毎月の返済金額の2分の1を村が10年間助成
  • 助成額上限:なし(返済負担分に応じて変動)
  • 居住要件:同村でなくても良い

吉井善嗣村長は「目玉施策で新しい発想を持つ人材を呼び込む」と意気込み、人口規模が小さくても積極的な取り組みを行っています。このように、地方自治体の奨学金返還支援は「人口規模にかかわらず若者を呼び込む」「雇用確保のツール」として活用されています。

佐賀県|代理返還企業への補助金

佐賀県では2025年度から奨学金返還支援事業をスタート。JASSOの代理返還などを実施する企業に対して助成金を支給しています。「地方は給与水準が低く、新卒などの若い社員は返還の負担感が強い」という実情を考慮し、「地方を取り組み意義は大きい」と明言しています。

補足情報と注意点|奨学金バンクや専門家の声

自治体や企業の動きに応じて、新たなサービスも登場しています。人事・組織コンサルティングのアクティブアンドカンパニーは、2024年3月から「奨学金バンク」というサービスを本格展開しました。

「奨学金バンク」の特徴

  • 仕組み:JASSOを利用した人が就職・転職する際に、同サービスに参加している企業の求人紹介
  • 代理返還:入社後3年間、毎月1万円ずつJASSOに代理返還
  • 資金源:人材紹介手数料の一部を原資に充てる
  • 参加企業数:約300社

長崎市にある協和機電工業は、2026年からこの奨学金バンクに参加しています。「最近、各部署が希望する人数の半分ほどしか採用できていない」という課題に対し、「奨学金バンクを通じて多くの学生らに自社を知ってもらい、27年入社の新卒採用では全国から人材を集めたい」としています。

専門家の見解|長所と課題

武蔵野大学非常勤講師の小島聖子氏は、「奨学金返済支援は地方での就職の後押しになる」と述べています。同時に、「採用後の定着には組織内での関わりの中でロイヤルティ(忠誠心)醸成を図る工夫も必要だ」と補足しています。

これは重要なポイントです。単に経済的負担を軽減するだけでなく、従業員が企業に対して長く留めたいと思えるような環境づくりが不可欠なことを示唆しています。

まとめ|地方創生と人材確保の”三方よし”になる新しい仕組み

自治体と企業の連携で広がる奨学金返還支援は、「地方への若者の定着」「雇用の確保」「経済的負担の軽減」という3つの要素が調和するシステムです。それぞれに異なる利益があるため、これは「三方よし」と呼ぶことが可能です。

企業にとっての価値

優秀な人材を確保できる。給与水準は低くても、奨学金返還支援で離職リスクが減り、定着率が向上する。特に地方では、この支援が採用活動の重要な武器になっていることが確認されています。

自治体にとっての価値

Uターン・Iターンの促進により、地域人口の減少対策に効果がある。給与水準が低い地域ほど、若者の返還負担感が高いため、制度活用意義は大きいという実情があります。

従業員・若者にとっての価値

経済的な負担を軽減できるため、早期返済が可能になる。地元での生活がしやすくなり、定着に繋がります。特に地方創生を目的とした取り組みと連動することで、地域社会への貢献感も生まれます。

仕事における新しい発想

この奨学金返還支援の動きは、単なる制度的な問題ではありません。それ以上に重要なのは、働く者たちの未来に対する希望と確信です。若いうちから将来への不安を抱えるのではなく、社会が支えてくれるという信頼関係が築かれつつあります。

企業にとっては「人手不足」という課題の解決策。自治体にとっては「地域人口の減少」への対抗策。若者にとっては「地方で働くことへの障壁」の低下です。それぞれ異なる視点から見るべき問題が、一つのシステムで解決される。これはまさに「仕事における新しい発想」と言えます。

働く者一人ひとりが、自分の未来を自分で切り拓く努力をするだけでなく、社会制度や地域の支援を活用するという意識も必要です。同時に、受け取る側ではなく、「どのような協力関係を築けるか」という視点が重要です。

地方創生という言葉は頻繁に使われますが、それが単なるスローガンに終わらず、実際に人々が生活する場所として機能するようにするには、こうした細やかな配慮が必要です。給与水準だけでなく、返還支援のような具体的な制度が、働く人の心に残るはずです。

最終的には、「自分がどこで働いても良い」「自分の人生を自分で設計できる」という確信を持つことです。それが地方創生と企業の人材確保、そして働く者の幸福を同時に実現する道筋です。

 

 

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