はじめに
最近、スマートフォンやインターネットインフラの業界動態について意識されたことはありませんか。
世界規模で展開する通信機器メーカーが市場を支配し続ける一方で、日本の通信大手NECや富士通といった国内企業は、業績やシェアにおいて厳しい状況にあると言われています。
「MWC(モバイル・ワールド・コングレス)」という世界的な展示会でも、両社は既存の事業方針を変更し、「新しい道」を示しました。これからの時代、国内の通信技術を守り抜くためには、なぜこのような決断が必要なのか、その背景と戦略を深掘りした記事です。
経済安全保障の観点や、具体的な新製品のアプローチなど、知りたい情報を解説いたします。
NECと富士通が事業を見直す真の理由「経済安全保障」と「市場シェア」
この記事の最も重要なテーマは、”国内通信機器メーカーがなぜ「基地局(通信塔)」という既存事業から撤退し、あるいは再編を行う必要があるのか”です。
「圧倒的な海外企業の競争力」と「日本国家としてのセキュリティの維持(経済安全保障)」の観点からこの答えが出てきそうです。
まず市場の実情について。
調査会社オムディアのデータによると、2024年のベース局市場における世界出荷額シェアは、中国の華為技術(ファーウェイ)、スウェーデンのエリクソン、フィンランドのノキアの3社が合計で8割近くを占めています。
一方、NECのシェアは約0.9%、富士通は約0.5%となっています。
これは非常に厳しい現実です。
国内企業の自前主義的な市場での戦いは限界に来ていると言えます。そこで両社は共通して「既存事業の終息」や「組織再編」という決断を迫られました。
具体的な新戦略と今後の製品展開のポイント
NECや富士通が単なる撤退ではなく、新たな方向性を持っている点を3つ解説します。
- ポイント1:国防・宇宙分野との統合(経済安全保障の文脈)
NECは、基地局事業を単独で維持するのではなく、航空宇宙や防衛関連事業と一体運営する方向へ舵を切りました。佐藤氏(NEC ネットワークソリューション事業責任者)は「大きな傘の下で研究開発費を自由に差配できる形になる」と説明しています。 - ポイント2:ソフトウェア定義ネットワークへのシフト(vRAN採用)
従来のハードウェア中心の基地局ではなく、ソフトウェアを使う「vRAN」での利用を前提とした製品を展開しました。NECの堀越氏は「ソフトウエアベースなので専用ハードと比べて柔軟な構成がやりやすい」と強調しています。 - ポイント3:富士通の分社化でスピードアップ(FINITYへの発展)
富士通は、ネットワーク事業を分社化する形で25年7月に新たな法人(後述)を立ち上げました。富士通の森林社長は「分社化したことで社員に自立心が芽生え、意思決定も速くなった」と語りました。
通信技術の価値再定義
上記の新戦略にはいくつかの注意すべきポイントや補足情報があります。
- 技術的メリットの詳細
展示された製品の一部は、データセンター間接続用のネットワークです。NECはこれについても急成長分野として強調しています。「AT&Tや欧州大手に選ばれている」と言及しており、日本国内だけでなく海外展開の足掛かりを固めつつあります。 - 人材維持という最大の課題
通信技術の縮小は、それ自体が「日本人からの技術・人材の流出」に直結します。総務省も国産技術の生き残りを支援策で議論しており、官民ともに「この技術だけは国内に留めたい」という意識が強まっています。 - コスト面の優位性
ソフトウエアベースの導入は、通信事業者にとってトータルコスト面でメリットがあります。ハードウェアだけを追及するのではなく、システム全体での効率化がトレンドとなっています。
まとめ
このように、NECや富士通の基地局事業の変遷は、単なる企業の経営判断に留まらず、国全体が抱える「技術の独立性」という重大な課題と深く結びついています。
市場から撤退したとしても、それは単なる敗退ではありません。「経済安全保障」という新たな定義の下で、通信技術の価値を再構築しようとする試みなのかもしれません。
しかしながら、ここで最も懸念されるのは、「技術が失われること」そのものです。総務省も急ピッチで支援策を議論しており、国産通信技術の生き残りに向けて官民模索が続いています。
企業の業績や市場シェアという数字に惑わされないでほしいのは、我々が享受する情報インフラそのものの安定的な提供が、どれほど難しいものであるか、という点です。NECや富士トンのように、既存のビジネスモデルから外れ、ソフトウェア定義や統合開発へ転換する決断は、単なる経営戦略ではなく、国家としての技術維持への一つの回答でもあります。
「基地局事業はやめていない。今回新製品で泡吹かせたい」という堀越氏の言葉には、諦めない姿勢が込められていますが、同時に「市場の厳しさ」を認めた現実的な姿も感じられます。分社化によるスピードアップは、その一つの手立てと言えます。
このように、通信業界の変革は、我々一般ユーザーが感じる「通信サービスの進化」といった表側だけでなく、裏で「技術の国産化」という重要な意味を持っています


