はじめに
大卒企業で働く社員満足度の9割は「人間関係の質」によります。日本経済新聞で紹介された、従業員数千人規模の会社で「働きがいのある会社」として1位に輝いたディスコ株式会社の組織運営手法から、一般的なビジネスパーソンが実践できることを見ていきましょう。
従来の企業組織では、「上司からの命令」「部署間の壁」「固定された業務分担」が一般的でしたが、ディスコはこれらを根本から変える独自のシステムを構築しています。その核心にあるのは、一つのキーワード
「不納得」をなくす
この言葉こそが、組織のパフォーマンスと個人の仕事へのモチベーションを両立させるための鍵です。
ディスコの独自制度とそれを実現した仕組み
具体的な実践方法として、以下の4つの自由なシステムを導入しています:
- 社内通貨「ウイル」の活用
- 異動の自由(部門移動)
- 勤務地の自由(場所固定)
- 業務の自由(誰がやっても良い)
①社内通貨「ウイル」の仕組みについて
ディスコは2003年から、社内のあらゆる活動を「取引」として捉える独自のシステムを導入しています。従来の管理会計とは異なり、自営業者のように業務の収支を可視化させることで、社員一人ひとりが自分の仕事に責任を持つ感覚を生み出しました。
具体的な例:
- 営業部門が製品を顧客に販売したら、売上を「ウイル」に換算。その一部が営業の利益になります。
- 製造部門は営業から製品の仕入れ代を支払うことで、自分の利益を得ます。
- 会議室の使用料や、同事僚への仕事依頼も「ウイル」でやり取りします。
このシステムにより、「命令」という従来の関係性が、「納得がいく取引関係」へと変化します。上司が急ぎの仕事を頼む際、100万ウイルを支払いの条件として提示すれば、部下は不満なく引き受けるでしょう。成果が上がらなければ仕事が回ってこなくなるため、自然と質の高い成果を生み出されます。
②異動の自由について
従来の企業では「部署を決めるのは会社」という固定観念がありましたが、ディスコでは社員が希望し、相手側の部署が認れば自由に異動できる仕組みがあります。2012年ごろから事実上スタートしました。
- スキルやキャリア展望に合わせて、異動したい部署への申し出が可能
- 部門長は部下を無理に留められないため、人材の流動化に常に取組まなければなりません
- 本社の社員が工場異動となる場合でも、「東京在住のまま勤務」という選択ができる
このシステムにより、部署間での人材配置が「不公平」ではなく「自主的選択」によって行われ、組織全体のパフォーマンスが向上します。
③業務の自由について
2016年ごろまでに導入された制度で、「社内の業務を誰がやっても良い」という考え方に基づいています。従来の部署制では、人事管理は人事部だけが担当することになりますが、効率的なシステム開発ができたら他の部署や社員も担当できるのです。
- 部署の壁を取り払い、業務をより効率化することが可能
- 社内通貨「ウイル」を獲得できることで、自営業者のように自分の成果が可視化
- 従来の管理部門も社内の誰でもできる業務と位置づけられる
補足:働きがいを実現する「人間関係の質」について
ディスコの関家一馬社長は、社員満足度の9割は「人間関係の質」というデータを示しています。これは、従来の組織論では重視されにくかった、個人の主体性を尊重するアプローチの一環です。
- 給与の高さも働きがいの要素ですが、一度上げると下げにくい
- 予測可能性が大事。成果に応じた報いが明確に公表されることで、不満はなくなる
- ハードワークを好む人も受け入れる文化。そう明言することで、優秀な人材が集まります
まとめ:仕事における「不納得」解消の原則
組織とは、個々の人間が自発的に力を発揮する環境です。そのためには、「命令」という従来の関係性を、「納得のいく取引」として再定義することが重要です。
ディスコの事例から学べることは、以下の3点:
- 「不納得」を許さない文化を築くことで、組織全体のパフォーマンスが向上します。
- 個人主体の可視化により、社員は自らの仕事に責任を持ちやすくなります。
- 人間関係の質こそが、働きがいの核心を担っています。
この原則を日常的な業務や人事施策に適用すれば、組織内の対立が減り、成果が生まれやすくなります。上司と部下の関係も、取引のような相互依存の関係へと進化します。
「人間関係とは、その質によって仕事の成否が決まります。命令という旧来の関係をなくし、納得のいく取引関係を築くこと——それは組織運営の基本であり、同時に個人の仕事への責任感を高める最も効果的な方法です。ディスコが目指したのは、単なる効率化ではなく、「働くこと」そのものを価値あるものへと再定義することでした。その視点は、どのような規模や業種の組織にとっても、共通の原則となるでしょう。
「不納得」という言葉は、ビジネスパーソン一人ひとりが考えるべき課題です。それは、職場での対立を超え、自己の成長への投資へと変わり得ます。この変化をきっかけに、自分自身の働き方を見直してみることをお勧めします。

