AIの本質は「過去の知恵を次の人に引き継ぐ」こと

まず、最も重要なポイントはこれです。

「AIは単なる効率化工具ではなく、「知識の伝承」を可能にする技術だ」という視点が、現場の課題解決にどう役立つか

日立製作所の鉄道システム:ベテランから若手への「暗黙知」の共有

日立製作所の大子事業所(茨城県日立市)では、鉄道向けの列車運行管理システムの品質保証部門でAIを活用しています。ここは東京圏の24線区、392駅にまたがる路線を制御する重要な拠点です。

課題:ベテランが持っていた「ナレッジ(経験)」の問題

「不具合が発生した際、顧客からの連絡窓口」として機能する品質保証部門では

  • ベテラン社員はレアケースでも的確な判断を下せるが…
  • 新人や中途採用者は過去のトラブル事例をすぐに引き出せない
  • システムの更新時に、経験豊富な人材のノウハウ継承に苦労する

ここで注目したのは「生成AI」の活用です。過去の問題事例を読み込ませたAIを導入し、新人でもベテラン並みの対応が可能になりました。

具体的な仕組み:質問と関連事例

・ChatGPTのような使い勝手:質問すると簡潔な回答が表示される

・関連する過去事例のリンクが複数表示される:「似たケースはここ!」とすぐに示唆をくれるのが特徴です。

「入社前の前例を見て対応できた」と、同社の若手社員は笑顔で話しています。入社2年目でも「ベテラン並み」の対応が可能になったんです。

日立のAI戦略を統括する吉田順氏はこう語っています。

「最も象徴的で難しいことから着手するのがコツ。難しい方がエンジニアはワクワクする」

参天製薬:研究開発の全工程をAIで加速化

眼科専門の製薬会社、参天製薬(奈良県生駒市)では、Microsoft Copilotを使って業務プロセスの全てに活用しています。眼科全般の研究から薬剤開発までを担当する同センターは、以下のような4ステップをAIで強化。

情報探索
仮説生成・計画
データ取得・解析
報告・共有
工程 従来方式の課題
情報探索:論文を探すため、データベースを何日もかけて検索
仮説生成:社内の古い資料を読み込ませる時間が不足
データ解析:統計分析方法の選択肢が限定的

成果:2-3倍の速さで研究開発を加速化

「数日かかった探索が1日でできるようになった」と、同社は実感しています。非臨床実験では新たな統計分析方法を導入し、データ品質をさらに高めています。

「全体として従来の2-3倍の速さで研究開発サイクルを回せる実感がある」と、製品研究統括部の岡部高明 CMCマネジメントリーダーは話します。

製薬会社にとって研究開発には数年かかるため、「成功率の高いものを確実に臨床試験につなげる」ことが重要です。AIの活用は「質向上」にも寄与しています。